本研究では,パルスパワー応用研究の基盤となるパルスパワー電源の開発を行っております。電源のスイッチング制御には,次世代パワー半導体として注目度の高いSiCを用いたパワーMOSFETを採用し,高性能化を目指しています。
排ガスや排水に含まれる環境汚染物質の無害化,農作物の成長促進や鮮度保持をはじめとしたパルスパワー技術の応用分野では,高効率であるために高電圧の短パルス放電が要求されます。そのため,電源に用いる半導体スイッチング素子には,高出力容量と高速動作の両立が必要です。しかし,半導体の出力容量と動作速度は,一方を高くすればもう一方は低くなってしまうというトレードオフの関係にあることから,同時に実現することが困難でした。半導体素子の1種であるMOSFETは比較的小容量・高速な素子であり,これまで高耐圧化と低損失化の研究が進められてきました。しかし,半導体材料として広く使われているケイ素 (Si) の物性値に基づく性能限界が近づき,現状以上の性能の実現は困難になりました。そこで,Siに代わる材料として炭化ケイ素 (SiC) が注目されています。SiCはSiに対して,バンドギャップや飽和ドリフト速度,絶縁破壊電界といった物性値において非常に優れています。SiCは現在,MOSFETに対する高耐圧化と低損失化の研究が活発に行われており,一部量産化や市販化もされています。
そこで本研究グループでは,SiCパワーMOSFETに注目し,高出力と高速動作を同時に実現可能なパルスパワー電源の開発を目指しています。パルスパワーの発生方式には,容量性エネルギー蓄積 (CES) 方式と誘導性エネルギー蓄積 (IES) 方式があり,この両方について研究を進めています。写真はIES方式の回路です。MOSFETオン時にトランスにエネルギーを蓄え,MOSFETオフ時に2次側に高電圧短パルスを発生させます。図は無負荷時の出力電圧波形であり,30 kVを超える高電圧出力と60 ns程度の短パルスを実現できています。これにより,放電による応用分野への適用も期待でき,現在最適化等の研究を進めています。
小型パルスパワー発生装置
電圧波形