高電圧パルスバースト駆動誘導性結合プラズマの特性評価

 本研究では,プラズマプロセスへの応用を目的として高電圧パルスバースト駆動による誘導性結合プラズマを生成し,プラズマの基礎的な特性の評価およびエッチング性能の評価を行っています。

 今日の製造工業分野において,プラズマを用いた材料加工技術であるプラズマプロセスは欠かせない存在となっています。誘導性結合プラズマ (Inductively coupled plasma : ICP) は,ウエハと呼ばれる回路基板上の不要な部分を削り取るエッチングや,配線用の金属薄膜を製膜するスパッタリングといったプラズマプロセスに適用するプラズマ源として注目されています。ICPのようなプラズマ源をプラズマプロセスに応用する場合,生産性の観点から,装置の低コスト化,生成したイオンを独立に制御できるかどうか,およびプロセス処理時間の短縮が求められます。ICPは無電極でプラズマを生成でき,チャンバと呼ばれる実験装置内に配置した基板電極に印加する電圧によって,生成したイオンを独立に制御できることから,プロセス応用に向けた研究が進められています。

 ICPの基本的な生成手法としては,コイルに高周波電流を流した際に発生する磁束の時間変化に伴い生じる誘導電界によって電子を加速させ,プラズマを生成・維持するといった手法になります。一般的なICPは,13.56 MHzの周波数,0.1~10 Paの低圧力によって生成され,密度1019~1020 m-3のプラズマが得られます。しかし,周波数が高い場合,インピーダンス整合回路が必要になるため装置の規模が大きくなってしまうことや,整合を取る処理が煩雑であるといった問題が生じてしまいます。この問題を解決するために,ICPの新たな生成手法として,数百 kHz帯の高電圧パルスバーストを用いた事例が報告されています。この手法には,使用する周波数帯を数百 kHzとしているため整合回路が不要で簡単な回路構成になること,大電力を投入できるため従来よりも高密度なプラズマが得られること,バースト幅やデューティー比を自在に設定できるためプロセス条件を最適化できること,といった利点があります。

 そこで,我々の研究グループでは,プラズマプロセスへの応用を目的として,高電圧パルスバースト駆動によりICPを生成し,電子温度やプラズマ密度といったプラズマパラメータの定量的な評価を行っています。また,プロセスへの応用として,Siウエハのエッチングを行い,エッチングの性能評価を行っています。エッチングに関しては,ArとCF4の混合ガスを用いた反応性イオンエッチングによって,対称のSiウエハのエッチングを行っています。 本プラズマ源では,数 Paにおいて,2~9 kWの電力を投下することにより,1019 m-3オーダーの高密度なプラズマが生成可能であることがわかっています。また,Ar/CF4の混合ガスを用いてSiウエハのエッチングを行った場合,エッチング速度は最大で0.13 μm/minとなり,F原子の供給がエッチング速度を増加させていることがわかっています。

放電の様子

上:純Ar放電、下:Ar/CF4放電