大電力インパルスマグネトロンスパッタリングの特性評価と成膜への応用

 HiPIMS(High Power Impulse Magnetron Sputtering)は,パルスパワーにより生成した高密度プラズマを用いて,物質表面に厚さ数µm程度の薄膜を形成する成膜技術の一種です。

 物質表面に薄膜を形成する成膜技術は,半導体・自動車部品・切削工具・金型・医療機器など,工業的に様々な分野で利用されています。薄膜を堆積させることで微細構造の作成,既存の材料の強化が可能となります。薄膜を成膜する技術の一つとしてスパッタリング法が知られています。スパッタリング法は,材料選択の幅の広さ,高い密着性が特徴となります。しかし,従来のスパッタリング法は,膜質の制御が困難である,成膜速度が遅いという欠点があります。

 HiPIMSは,スパッタリング法の一種であり,磁場とパルスパワーを用いることで,従来のスパッタリング法に比べて,イオン化率が向上し,膜質の制御が比較的容易となります。一方で,成膜速度が遅いことや,装置が大型であるといった欠点があります。私たちは,これらの欠点の改善とHiPIMSのイオン化率の向上を目指し,研究しています。

 スパッタリング法は,ターゲット (薄膜材料) にイオン化したガスを衝突させることで,ターゲットの粒子を弾き出し,基材 (成膜する対象) に付着・堆積させ,成膜する技術です。しかし,スパッタされた粒子のほとんどが中性粒子であるため,基材に電圧を印加して膜質を制御することが困難です。

 HiPIMSでは,ターゲット裏に磁石を設置することにより,電場と磁場によるプラズマの閉じ込めが起こります。また,パルス電源を用いて大電力を投入することにより,イオン化率が改善され,膜質の向上,構造が緻密で均一な成膜が可能となります。

 本研究では,HiPIMSの欠点の改善とイオン化率の向上を目指し,磁場分布を変化させることによる放電領域の変化,電源のアレンジによるイオン化率の向上,成膜速度の改善,といったことを行ってきました。また,HiPIMSと同様に,磁石とパルスパワーを用いてスパッタリングの効率化を図ったHPPS (High Power Pulsed Sputtering) の研究を行っています。

 研究を通して,磁場分布を変化させることでプラズマの生成位置とリング幅が変化することを確認しました。電源のパルス幅を低減させることで,炭素ターゲットのイオン化率が向上することがわかりました。また,スパイカ・サステナ方式という高電圧・短パルス幅電源と,低電圧・長パルス幅電源の2種類の電源をそれぞれ用いることで,プラズマの点灯時間が延長され,成膜速度が向上することがわかりました。

 HPPSでは,磁石の配置を変化させることにより,HiPIMSよりも成膜装置を小型にすることが出来,HiPIMSの欠点であった装置が大型であるという点を改善しています。

HiPIMSのプラズマ点灯写真

HPPSのプラズマ点灯写真